清水克行「喧嘩両成敗の誕生」

最近読んだ本で一番面白かったのがこの本

清水 克行「喧嘩両成敗の誕生 」講談社選書メチエ

 

もうまず章タイトルからして面白かったです。

第1章 室町人の面目
1笑われるとキレる中世人
2殺気みなぎる路上
3反逆の心性
第2章 復讐の正当性
1室町人の陰湿さ
2「親敵討」の正当性
3復讐としての切腹

などなど

この「笑われるとキレる中世人」ってフレーズにまずやられました。
もうこれは読むしかない、と。
以前ヒストリーチャンネルで放映していた「ヴァイキング」というドラマを見て、北欧の海賊の野蛮さにひたすらドン引きしていたのですが、いやいや、本書を読むと中世日本人も負けてはいません。

立小便を笑われ金閣寺と北野社が全面戦争寸前になったり、連歌の内容を笑われて喧嘩になり一方が撲殺されたりと、とにかく怒りの沸点が低い。
笑う―笑われるという意識が今以上に重要な意味を持つ時代だったとしても、位の上下を問わず、管領から身分のない孤児まで、とにかくみんなが強烈な名誉意識を持っています。

自分の自尊心を傷つける相手は決して許さない、復讐は正当な権利であり、相手を殺すことも辞さないのです。そのうえその怒りを胸の奥深くにしまい込み、自分の勝利できる時節が到来するまで耐え忍ぶ陰湿さも持っています。

著者の「史料を読んでいると、よくこの時代の室町殿や大名が発狂するという話に出くわすのは、足利氏を中心とした遺伝的な形質ではなく、当時の権力構造と被官の心性に由来するものと考えるべき」という考えにはなるほどと思いました。
そりゃあこんないつキレるかわからない人達に囲まれたら病んじゃうよね、と。

なぜ日本で喧嘩両成敗という奇妙な法律が誕生したのか、それこそがこの本の主題ですが、そこに至るまでの壮絶な歴史を様々な具体的なエピソードを交えながらわかり易く書いてありました。
どのエピソードも知らなかったことばかりで面白く、同時に中世人たちの苛烈な心性に驚かされます。 

この本を読むまで、喧嘩両成敗はまあまあ公平なものだと思っていました。
しかし読み終わった今では喧嘩両成敗というものは現代では決して褒められたものではないと思うようになりました。
争いの原因の特定よりも、当事者をどちらも断罪することで「調和」を優先して「事実」を軽視する。この中世から受け継がれてきた考えは、今でも深く浸透していてあらゆる場面で目にします。それは中世では社会秩序の維持に有効でも、現代ではどうなんでしょう? どちらかというとよくない影響の方が強いように感じます。 

著者が書いているように、「柔和で穏やかな日本人」というイメージが凶暴性を内面に沈潜させる日本人の執念深さを反映したのだとしたら、そのイメージはいったいいつ頃作られたのでしょうか?江戸時代、それとも戦後でしょうか?私が子供のころからその「穏やかな日本人」イメージは繰り返し学校やメディアから教え込まれていた気がします。

とりあえずこの本、法制史という観点でも、中世の日本人を知る上でもとっても面白い一冊でした。

読書

Posted by sata04