宝塚月組公演「桜嵐記」

ストーリー

南北朝の動乱期。京を失い吉野の山中へ逃れた南朝の行く末には滅亡しかないことを知りながら、父の遺志を継ぎ、弟・正時、正儀と力を合わせ戦いに明け暮れる日々を送る楠木正行(まさつら)。度重なる争乱で縁者を失い、復讐だけを心の支えとしてきた後村上天皇の侍女・弁内侍。生きる希望を持たぬ二人が、桜花咲き乱れる春の吉野で束の間の恋を得、生きる喜びを知る。愛する人の為、初めて自らが生きる為の戦いへと臨む正行を待つものは…。「太平記」や「吉野拾遺」などに伝承の残る南朝の武将・楠木正行の、儚くも鮮烈な命の軌跡を、一閃の光のような弁内侍との恋と共に描く。

宝塚歌劇公式サイトより引用

感想

友人から宝塚で南北朝を舞台にした演目があると教えてもらいました。ちょうど契約している動画配信サービスのU-NEXT でライブ配信するということなので見ることにしました。

8月15日(日)13:30公演 千秋楽

月組 東京宝塚劇場公演『桜嵐記(おうらんき)』『Dream Chaser』

以下ネタバレを含む宝塚ド素人の南北朝時代ファンの感想です。


正行と弁内侍の恋がロマンティックに描かれるんだろうなあと思いながら見始めました。


最初に南北朝のおおまかな説明が劇仕立てである親切仕様。
足利ファンなので尊氏が出てきてイケメンで嬉しかったです。いや宝塚だから美男美女以外いないでしょうけど。
そして後醍醐天皇あの有名な肖像画そっくりで驚きました。

説明としては倒幕〜建武の新政〜南北両朝の成立

南朝が天皇を中心とした公家至上主義。

北朝は武家のための政権といった感じでした。

そして早々に女性を侍らせて現れる高師直。そこに夫の謀反の無罪を訴える帝の姪。
南北どちらの姫かわからなかったけど、その姫に裸になるよう要求する師直。衣を剥がれる姫。
とても下衆いけど宝塚こういう描写ありなんだとびっくりしました。そしてやっぱり師直ってこういう役割になるんだなーと謎の感慨がわきました。
そしてここで美女と評判の南朝の弁内侍を狙っている情報。

場面転換で輿に乗った弁内侍が高師直の配下に攫われるシーンに遭遇し助ける楠木正行。
助けられたものの実は罠だと知っていてあえて寝首をかくために攫われたかった弁内侍は激怒。このキャラクター付は意外でしたが好印象でした。
なんだかんだ弁内侍は正行の行軍に付いていくことになりました。

ところでこの弁内侍は日野俊基の娘ということになっていて上手い改変だなと思いましたが、調べたら今作の下敷きとした「吉野拾遺」で日野俊基の娘とされているそうです。
日野家の悲劇を娘の立場としてヒロインの口から語らせることで重みが出ていました。

二人の間になんやかんやありつつ南朝に戦勝報告に戻る正行達。
報奨に北朝との和睦の使者の役を望む正行に激怒する朝臣たち。

南朝では天皇>公家>武家のカーストがとてもくっきりしているようで、武家が尽くすのは当たり前のことだと北畠親房に言われます。
そして後村上天皇はもう誰も死なせたくないというけれど、そこに現れる後醍醐天皇の亡霊。というか怨霊?宝剣を持っていますが独鈷杵はもってなさそうでした。
あの南北朝ファンお馴染みの「玉骨はたとえ南山の苔に埋るとも、魂魄は常に北闕の天を望まんと思ふ」の歌とともに現れ、日野俊基の処刑シーン、北畠顕家の自害シーン、楠木正成の戦死シーンが現世と交錯するという衝撃の演出。繰り返される「玉骨はたとえ〜」の歌とともにとても緊張感が高まり怖かったです。


結局正行は出撃を命じられます。

もっと恋物語に寄るのかなーと思っていましたが、意外とそうでもなく。むしろ想像していたより主役カップルのからみが少なくて驚きました。


正行は父正成はなんのために生きなんの為に死んだのかを問い続け、そして自分は家名でも欲でも忠義でもない、もっと大きなものに命を使いたい、「もっと大きな流れの為に」と歌います。
この正行が歌うもっと大きな流れの果には、楠木正成正行親子の物語が明治以降果たす役割にたどり着いちゃうと思うのでここでの「大きな流れ」というのにとても考えさせられました。「忠義でもない」といっているし、じゃあなんなんだろう?と。
正直いまいちわからないまま最期の弟との時間に「残りの命はたったひとりの女のために」と叫んだのをきいてなんだか安心しました。

高潔なまでに美しく散る様は人々を熱狂させるには十分だけど、ひとりの青年として最期に女性のために命をあげたい方が泥臭く人間性を感じられてホッとしました。
本当はここでぐっと来て感動するところかもしれませんが、ホッとしちゃうのは南北朝ファンなら割と賛同してくれると思います。

なんといっても取り扱い注意な南北朝。
楠木親子はファンも多く大河ドラマ化の要望もあるけれど、大河ドラマ反対活動も行われています。

だからこそ宝塚で演目になると聞いたとき驚きました。時代的にマイナーな上に炎上の可能性もあるのに、と。
ところで戦前宝塚で桜井の別れとか演目であったんでしょうか?もしくは新田義貞と勾当内侍とかあったのでしょうか。


とにかく楠木3兄弟それぞれの個性がくっきり別れていて見ていて楽しかったです。とくに一人だけ関西弁で兄二人とは少々違う面をだしていた正儀のキャラクターはその後の史実と劇中の役回りと合わせてもとても印象的でした。3人揃いの色違いのような衣装も素敵でした。

個人的に面白かったのは尊氏の美少年趣味をばっちり出してきたところ。
楠木邸に乗り込んだときに連れてきた小姓がものすごい美少年なのでこれはひょっとして饗庭命鶴丸!と興奮しちゃいました。そのうえセリフがあって自分たちのことを花一揆に所属してると言ってたような……(記憶が曖昧)

物語は時間が巻き戻り、最後は四條畷への出陣シーンで終わるのですが、それが絵巻物みたいに華やかでとても美しかったです。

「梓弓」がやたら歌詞に使われていたので太平記の正行の「かへらじとかねて思へば梓弓なき数にいる名をぞとどめむ」かなーと思っていたら違ったようです。でもおそらく意識した作詞なのだろうな、と思います。後醍醐天皇の歌とともに面白い使い方だなと思いました。後醍醐天皇は登場のたびに周りに圧をかけていってとても迫力があってお見事でした。もうこれだけでも見てよかったと思いました。なぜ南朝が生まれ続いたのか、それを理解するためにはやはり後醍醐天皇の圧倒的な存在感と執念が理由にあると思うので。

ところで足利ファンとしてはちょっと伝えたい説話として、尊氏の息子2代将軍義詮は楠木正行のことをとても尊敬していて自分の死後の墓は正行の墓の隣に建てて欲しいと遺言したというものがあります。

現在京都の宝筐院では正行の墓とされる五輪石塔の隣に義詮の墓とされる宝篋印塔が並んで建っています。


日常

Posted by sata04