東京国立博物館 足利尊氏願文
東京国立博物館で足利尊氏が清水寺に奉納した願文が展示されていると知ったので行ってきました。前回見たのは2017年の鎌倉国宝館での展示だったのでおよそ5年ぶりです。
その時の記事はこちら→鎌倉国宝館「鎌倉公方足利基氏ー新たなる東国の王とゆかりの寺社ー」

本館3室 仏教の美術―平安~室町
東京国立博物館の本館(日本ギャラリー)2階は、縄文時代から江戸時代まで時代を追って「日本の美術の流れ」を展示しています。
定期的に展示品は入れ替えられ、今回3室の「仏教の美術ー平安〜室町」で足利尊氏願文が展示されていました。
期間:2024年10月1日(火)〜2024年11月10日(日)
足利尊氏願文

この世ハ夢のことくに候
尊氏にたう心たハせ給候て
後生たすけさせをハしまし候へく候
猶々とくとんせいしたく候
たふ心たハ給候へく候
今生のくわほうにかへて後生たすけさせ給候へく候
今生のくわほうをハ直義にたハせ候て直義あんをんにまもらせ給候へく候
建武三年八月十七日 尊氏

足利尊氏が建武3年8月17日に清水寺に奉納した自筆の願文。この世は夢のようだと記し、今生の果報に代えて後生の助けとなること、弟の直義に安穏を賜うことなどを祈念します。端正な字姿と自然な墨色の変化がみどころ。まもなく幕府を開く尊氏の当時の書として貴重です。
展示解説文
初めてこの願文を知ったときは驚きました。足利尊氏・直義兄弟は仲が良いとは聞いていたけどこんな願文を書くほどに仲が良かったんだ、と。
自筆の願文が現在まで残っていると知ってぜひ見たいと思ったものです。
この願文を書いた建武3年(1336)8月17日といえば、度重なる戦を終え、つい2日前の8月15日に光明天皇が即位しまさにこれから、という時。そんな状況で今生ではなく後生を願い弟の安穏を願う。
それだけ心が疲弊していたのかなとも思いますし、そんな中でも家族を思いやる様子に尊氏の人間性を感じます。
年 | 出来事 |
---|---|
建武3年(1336)3月 | 多々良浜の戦い |
建武3年(1336)5月 | 湊川の戦い、後醍醐天皇比叡山へ |
建武3年(1336)8月15日 | 光明天皇践祚 |
建武3年(1336)8月17日 | 尊氏願文 |
その他の展示
伝源頼朝坐像

鎌倉鶴岡八幡宮境内の白旗神社に伝来したそうです。3室の入口に展示してあった事もあってか、常に人に取り囲まれて写真を撮られる人気ぶりでした。
起世因本経 巻第十(足利尊氏願経)



足利尊氏が後醍醐天皇や父母、元弘の乱以後の戦没者の供養と天下泰平、民衆の安穏を祈願した一切経のうちの1帖。京都、鎌倉、奈良など諸寺院の僧に分写させ、菩提寺の京都・等持院で供養したのち園城寺に移されました。帖末の木版刷りの発願文には尊氏の自署が見られます。
展示解説文