映画「天気の子」

ストーリーは大雑把に三部に分かれていたように思います。

第一部は離島から東京に家出して来た少年帆高が、東京で働き口もなく徐々に追い詰められていく中、弱小編集プロダクション社長の須賀に雇用され、そのプロダクションで働く夏美と三人で生活する中で自分の居場所を確立して自立と疑似家族的な安らぎを得るパート。

第二部では祈ることで局地的に晴れ間を呼ぶことができる陽菜と出会い、その弟の凪と三人で「晴れを届ける」仕事をするパート。とても幸福感と充足感に満ちたパートでした。

第三部では今まで帆高が築いてきた幸せが一気に崩壊するパート。「家出少年」であることと東京で拾った拳銃、それから陽菜の力の代償、陽菜の隠していた秘密、それらが一斉に帆高に向かって襲い掛かり、居場所も疑似家族も陽菜も全てを失い、そこから陽菜を探したいけれど周囲の妨害にあうというヘビーな展開。

エピローグ。帆高と陽菜の選択で「決定的に変わってしまった世界」が描かれます。
 
CMで「あの日、私たちは世界の姿を決定的に変えてしまったんだ」のセリフを聞いたとき、これはまた大風呂敷広げたなーと思いましたが確かに今と決定的に変わってしまった世界が描かれていたので納得です。これは確かに「変えてしまった」と思っても仕方がないほど変わったなーと思いました。広げた伏線や煽り文句はしっかり回収してくれないと見終わったあと消化不良になるので、しっかり回収されていてよかったです。

事前に感想でよく見かけた「賛否両論」はひょっとしてこの二人の選択についてかな？と思いましたがしかし今時人柱強要するのもどうよ、と思うので私はあの選択で良かったと思いました。

この世から消えた陽菜を探しに行くのは、「君の名は」でも瀧が三葉を探しに彼岸に行ってたなーと思い出しましたが、ギリシャ神話のオルフェウスも古事記のイザナギも亡くした妻を探しに冥界や黄泉へ下るので、こういった妻探し物語の話型には何か固有の名称でもあるのでしょうか。

ただし「君の名は」も「天気の子」も、オルフェウスやイザナギと違って探す相手をこの世に連れ戻すことに成功しています。やはりエンタメとしてみるならそちらの方がハッピーエンドで私は好きです。

総じてとても楽しく見れたのですが、あれ？と思った部分を何点か。

まず冒頭家出中の帆高少年の頬に張られた湿布と絆創膏。顔にけがをしている少年が家出している時点でDV被害を疑う訳ですが、特に親との確執等は語られず、物語終盤彼は親元へと返されています。また作中何度か大人によって頬を殴られる描写があり、それが見ていて痛々しかったです。

それと帆高を追う刑事の髪型。なんでその髪型なのか？　作中の東京がとてもリアルに、現実の企業名や商品、サービスがガンガン描かれていたので、一人だけその世界観からなんか違くない？と不思議に思っていました。彼が画面に出るたびについ髪型に目が行ってしまって困りました。

逆にこの描写いいな、と思ったところは陽菜が家で料理をするときにペットボトルなどを利用した再生ネギを使っていたところ。アニメでここまで生活感あふれた料理シーンは初めて見て感動しました。これだけで陽菜の性格や普段の生活を想像できます。

物語後半、陽菜の実年齢を知った時には、帆高少年と共に私までショックを受けていました。だから児童委員来てたんだ！とかだからバイト首になったのか！とかだから正規の仕事ができないからあんなみるからに怪しい風俗業の人と一緒にいたのか！とパズルのピースのように作中の陽菜にかかわるもやっとしたあれこれが一気に晴れた瞬間、私まで泣けてきました。中学生と高校生では自由度が違う。仕方のないことなんだけど、母子家庭で母を亡くした中学生が弟との暮らしを守るためにどれだけ頑張っていたのか。

そして弟の凪君。こちらもまたよくできた子で、陽菜に守られるだけの存在ではないとわかる活躍っぷり。帆高が先輩と呼ぶのを周囲も普通に受け入れているのに笑ってしまいました。

総じて夏休み映画としてとてもおすすめです。また「君の名は」を見ていたら前作の登場人物もあちこちに出ていたので面白いと思います。


蛇足
「君の名は」で三葉が「来世は東京のイケメン男子にしてください」って願っていましたが、今作中の瀧君を見て、瀧君はイケメンとしてデザインされていたんだなーと改めて感じました。